コラム

COLUMN

睡眠時無呼吸症の治療はいつから保険が使えるようになったのか

2025.10.15

――知られざる「医療保険適用」の歴史と今

■「いびきの治療」にも保険が使えるって本当?

いびきや眠気と聞くと、「それって生活習慣の問題じゃないの?」「病院に行っても自費でしょ?」
――そんなふうに思っている方は多いのではないでしょうか。

実は、「睡眠時無呼吸症候群(SAS:Sleep Apnea Syndrome)」の検査・治療は健康保険の対象です。
つまり、正しい診断を受ければ、誰でも保険診療として治療を受けられるのです。

この制度が始まったのは意外と古く、1998年(平成10年)のこと。
厚生労働省が正式に「睡眠時無呼吸症候群」を病名として認め、
その治療法である「CPAP(シーパップ)療法」が保険適用となりました。

■1998年 ― CPAP療法が保険収載された年

1998年、保険制度に「持続陽圧呼吸療法(CPAP療法)」が収載されたことは、
日本の睡眠医療における大きな転換点でした。

当時、欧米ではすでに睡眠時無呼吸症の危険性が社会的に注目されており、
交通事故・心疾患・生活習慣病との関係が次々と報告されていました。

日本でも同様の患者が増え始め、
「眠っている間に呼吸が止まる病気」をきちんと診断・治療する必要があると判断されたのです。

この年以降、
・睡眠時無呼吸症の検査(簡易検査・終夜睡眠ポリグラフ検査)
・CPAP療法による治療管理
が、全国の医療機関で保険適用として行えるようになりました。

■CPAP療法が保険で受けられる条件とは?

保険が使えるとはいえ、誰でもすぐに対象になるわけではありません。
明確な基準があり、それを満たすことで「医療保険の対象」となります。

厚生労働省の定める条件は以下の通りです。

● 検査で「中等症以上」と診断された場合

「1時間あたりの無呼吸・低呼吸の回数(AHI)」が
終夜睡眠検査(PSG)で20以上、簡易検査では40以上であれば、CPAP療法の保険適用対象です。

● 月1回の通院とデータ管理が必要

CPAP装置は医療機器として管理されるため、医師の診察と機械の使用データを確認するための月1回の通院が必要です。
この診察料や機器のレンタル費もすべて保険の範囲で行えます。
毎月の費用は3割負担の方で5千円弱です。

■CPAP療法以外にも広がる保険の対象

保険が使えるのはCPAPだけではありません。
無呼吸の重症度や原因によって、以下のような治療も保険の対象になります。

・マウスピース(口腔内装置)治療

軽症〜中等症の患者さんに対して、歯科医師による口腔内装置が保険適用。
下あごを少し前に出すように固定し、気道を広げて無呼吸を防ぐ方法です。
2004年から健康保険の対象となりました。
保険診療で行うには検査結果と検査医療機関からの紹介状が必要です。

つまり、睡眠時無呼吸症の治療は
「症状に合わせて複数の選択肢が保険で受けられる」ようになっているのです。

■なぜ保険が使えるのか ― 命を守る「医療」としての位置づけ

CPAPやマウスピースが保険適用になった背景には、
この病気が単なる“睡眠の問題”ではなく、
命に関わる全身疾患であるという認識が広まったことがあります。

無呼吸による酸素不足は、
高血圧、糖尿病、不整脈、脳卒中、心筋梗塞などの原因になることがわかっています。

さらに、日中の眠気による居眠り運転事故も社会問題化しました。
国としても、こうしたリスクを減らすために
「早期発見・早期治療を支援する仕組み」が必要だと判断したのです。

その結果、現在では
検査から治療、定期管理まですべて保険適用で受けられる体制が整いました。

■どのくらいの費用で治療できるのか?

3割負担の場合、目安は以下の通りです。

自宅で行う簡易検査:約2500円

終夜睡眠ポリグラフ検査:自宅で行う場合約12,000円、入院で行う場合3~4万円

CPAP治療(月1回の通院含む):約5,000円前後

自費診療であれば数万円かかる内容が、
保険を使うことでかなり軽い負担で受けられます。

■「昔は高かった治療」が、今は誰でも受けられる時代へ

1990年代までは、CPAP装置そのものが高価で、
一部の病院でしか扱えませんでした。

しかし現在では、
・全国の睡眠クリニックや内科で導入可能
・機器の小型化・静音化で使いやすく
・データをクラウドで管理できるシステムの普及
といった進化により、
日常的な治療として定着しました。

そのきっかけとなったのが、1998年の保険適用。
この制度がなければ、今のように多くの人が安全に治療を受けることはできなかったでしょう。

■まずは「保険で受けられる検査」から始めましょう

睡眠時無呼吸症の検査・治療は、誰でも保険で受けられる医療です。

・朝のだるさが取れない
・いびきが大きい
・家族に「息が止まってた」と言われた
そんな方は、放置せずに一度ご相談ください。

一晩の検査が、あなたの健康と生活の質を守るきっかけになります。
保険が使える今だからこそ、迷わず受けてほしい――それが私たちの願いです。

渋谷睡眠・呼吸メディカルクリニックでは、
自宅でできる簡易検査から、保険適用のCPAP治療まで、
すべて睡眠学会専門医の管理のもとで行っています。

気になる症状がある方は、ぜひ一度ご相談ください。
あなたの“いびき”が、健康を守る第一歩になるかもしれません。

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