コラム

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いびきに対するレーザー治療に潜むリスク

2026.04.23

「いびきを短時間で改善」「切らずにできる手軽な治療」「根治を目指せる治療です」
このような言葉を見て、レーザー治療に興味を持ったことがある方もいらっしゃるかもしれません。

最近は診察の際にレーザー治療について聞かれる事も増えてきました。
いびきは、本人だけでなくご家族やパートナーにも影響するため、「できるだけ簡単に治したい」と思うのは自然なことです。しかし、その“手軽さ”だけで治療を選んでしまうと、かえって健康を損なう可能性があります。
今回は、いびきに対するレーザー治療について、専門医の立場から注意点を分かりやすく解説します。

■ いびきと病気の違いを知ることが最も大切
まず知っていただきたいのは、「いびき=ただの音」とは限らないということです。
いびきは、眠っている間に空気の通り道が狭くなり、のどの柔らかい部分が振動することで起こります。これだけであれば、大きな病気ではない場合もあります。
しかし問題なのは、そのいびきの裏に睡眠時無呼吸症候群が隠れているケースです。
睡眠時無呼吸症候群は、眠っている間に呼吸が何度も止まる病気です。呼吸が止まると体は酸素不足になり、脳は何度も目を覚まそうとします。その結果、深い眠りがとれず、
・日中の強い眠気
・集中力の低下
・疲れが取れない
といった症状が出ます。さらに酸素低下によって、高血圧糖尿病、心筋梗塞や脳梗塞などの重大な病気のリスクが高まることが分かっています。
つまり、いびきは単なる「音」ではなく、体からの重要な危険サインである可能性があるのです。

■ レーザー治療とはどのようなものか
いびきに対するレーザー治療は、のどの奥にある柔らかい組織をレーザーで焼き、硬くすることで振動を抑え、「音」を小さくすることを目的としています。
確かに、この方法によっていびきの音が軽くなる場合があります。しかし、この治療が解決しているのは、あくまで「音の問題」に過ぎません。
もし原因が睡眠時無呼吸症候群であった場合、問題の本質である「呼吸の停止」には十分に対応できない可能性があります。

■ 科学的データが示す現実
2017年に発表された717人を分析した研究報告では、睡眠時無呼吸症候群の患者さんに対するレーザー治療の効果は限定的であることが示されています。
(Camacho, M., Nesbitt, N. B., Lambert, E., Song, S. A., Chang, E. T., Liu, S. Y., Kushida, C. A., & Zaghi, S. (2017). Laser-assisted uvulopalatoplasty for obstructive sleep apnea: A systematic review and meta-analysis) 

・無呼吸の回数が半分以下になった人:23%
・ほぼ正常まで回復した人:8%
・治療でかえって悪化した人:44%
このように、期待されるほどの効果が得られていないだけでなく、悪化するケースが少なくないことが明らかになっています。
これは医療において推奨できない値です。

■ なぜ悪化することがあるのか
では、なぜこのような結果になるのでしょうか。
その理由の一つとして考えられているのが、「喉の感覚の低下」です。
私たちの喉には、空気の通り道が狭くなるとそれを感知し、呼吸を保とうとする仕組みがあります。いわば“危険を知らせるセンサー”です。
しかし、レーザーで組織を処置すると、このセンサーの働きが弱くなる可能性があります。すると、気道が狭くなっても体がうまく反応できず、結果として呼吸が止まりやすくなることがあります。
つまり、いびきという「音」は小さくなっても、見えないところで呼吸の状態が悪くなる可能性があるのです。

■ 世界の専門機関も否定的な姿勢
このような背景から、世界の睡眠医療をリードする米国睡眠医学会(AASM)も、公式なガイドラインの中で、いびきレーザー治療に対して「レーザー治療は、睡眠関連呼吸障害(睡眠時無呼吸症候群など)の治療法としては推奨されない」と非常に強い否定の見解を示しています。
医療は「簡単そうに見えるかどうか」ではなく、「効果と安全性が証明されているかどうか」で選ぶことが重要です。

■ いびきが消えた=治った、ではない
患者さんの中には、「治療後にいびきがなくなったから安心」と考える方もいらっしゃいます。
しかし、これは必ずしも正しいとは限りません。
いびきは体からの警告の一つです。その音が消えたとしても、呼吸の状態が改善しているとは限らず、むしろ気づかないうちに無呼吸が進んでいる可能性もあります。
本当に状態が改善しているかどうかは、検査を行わなければ分かりません。

■ まず必要なのは「治療」ではなく「正しい診断」
いびきに悩んでいる場合、最も大切なのは「すぐに治療すること」ではなく、原因を正しく知ることです。
医療機関では、睡眠中の呼吸や酸素の状態を調べる検査を行い、いびきの原因を詳しく調べることができます。検査は痛みや苦痛を伴わず、自宅で行う事も出来ます。
その結果に応じて、
・生活習慣の改善
・マウスピース
・CPAP療法
など、科学的に効果が証明されている治療法が選択されます。

■ まとめ
いびきに対するレーザー治療は、一見すると手軽で魅力的に感じられるかもしれません。しかし、その効果は限定的であり、場合によっては状態を悪化させる可能性も指摘されています。
いびきは単なる音ではなく、体からの重要なサインであることがあります。そのサインを見逃さないためにも、「音を消すこと」だけに注目するのではなく、原因をしっかりと見極めることが大切です。
いびきや眠気でお悩みの方は、まずは専門の医療機関で検査を受け、ご自身の状態を正しく知ることから始めてみてください。それが、将来の健康を守る第一歩となります。

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