コラム
COLUMN睡眠時無呼吸症(SAS)とは
睡眠時無呼吸症候群 / SAS(すいみんじむこきゅうしょうこうぐん)
睡眠時無呼吸症候群についてもっと詳しく知りたいというリクエストがあったため、少し詳しいコラムを作ってみました。
長文になりますが、お付き合いください。
SAS健診についてはこちらもご参照下さい。
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睡眠時無呼吸症候群(SAS)とは
病態
睡眠時無呼吸症候群は眠り出すと呼吸が止まってしまう病気です。呼吸が止まると体内の酸素濃度が低下するため、脳から「起きなさい」という指令が出て目が覚めます(中途覚醒)。再び呼吸し始めますが、眠り出すとまた止まってしまいます。
これを一晩中繰り返すため、深い睡眠がまったくとれなくなり、日中に強い眠気が出現します。重症SASの方は1時間に30回以上呼吸が止まってしまうので、眠くなるのも納得だと思います。
さらに体内の血中酸素濃度が下がります。重症SASの患者さんは血中酸素濃度が70%台まで下がる方もよくみかけます。かなり下がっていることがお分かりいただけますでしょうか。
これを補うために心臓の働きが強まり、高血圧となります。血中酸素濃度の低下や睡眠不足によるストレスにより、血糖値やコレステロール値も高くなり、さまざまな生活習慣病やメタボリック・シンドロームが引き起こされます。さらに血中酸素濃度の低下は動脈硬化も進めるため、成人病とあわせて、心筋梗塞や脳梗塞を起こしやすくなります。また覚醒反応による精神疾患、行動・認知障害なども引き起こすとも言われています。
肥満の方は特に注意が必要です。肥満の方は見た目だけでなく、軟口蓋や喉にも脂肪がついて、それによって上気道を狭めます。横になることで重力がかかり息の通り道がさらに狭くなって、睡眠時無呼吸症候群になる可能性が高くなります。
また、扁桃腺肥大があると気道を狭くするため、お子さんの睡眠時無呼吸症候群につながることがあると言われています。
アルコールを飲むと体の力が緩むのと同じように、気道の筋力も緩み低下します。高齢の方も、気道を支える筋力が落ちることで気道を狭め、睡眠時無呼吸症に陥る場合もあります。
体重が重い選手の多いスポーツや、頸部を鍛える必要のあるスポーツなどの特定の競技のアスリートに多い疾患でもあります。アスリートにとっても睡眠は重要であり、睡眠の質と量の充実が瞬発力や巧緻性といったパフォーマンスを向上するだけでなく、やる気、集中力、状況判断能力をも向上させ、緊張や疲労の軽減に寄与することが明らかになっています。
さらにアジア人は、欧米人と比較して下あごが小さいため、肥満でない方も睡眠時無呼吸症候群を発症する人が多いので、積極的に疑う必要があります。
10秒以上の呼吸停止が1時間あたり20回以上出現する中等症・重症の睡眠時無呼吸症候群を放置すると、心筋梗塞・脳梗塞・生活習慣病・眠気による事故などを引き起こし、死亡率が非常に高くなるため、すぐに治療が必要です。
家族やパートナーからイビキ・無呼吸を指摘された方、睡眠中の呼吸による中途覚醒がある方は速やかに専門の医療機関で検査・治療を受けることが大切です。
分類
睡眠時無呼吸症候群は3種類に分類されます。
A.閉塞性睡眠時無呼吸
上気道が閉塞し、気流が停止し無呼吸になります。無呼吸症の9割以上の方がこのタイプです。気道がふさがっているなかで努力呼吸をするため、胸郭と腹壁は息を吸おうとするときにへこみます。
B.中枢性睡眠時無呼吸
呼吸中枢の機能異常により、呼吸筋へ指令が出ず無呼吸になります。無呼吸中の努力呼吸は見られません。
C.混合性睡眠時無呼吸
同じ無呼吸発作中に中枢性から閉塞性に移行します。
合併症
病態に記載した通り、無呼吸症の合併症は多岐にわたっており、肥満と並んで万病のもととなっています。代表的なものを挙げると
- 多血症
- 高血圧
- 糖尿病
- 高脂血症
- 不整脈
- 虚血性心疾患(心筋梗塞や狭心症)
- 脳血管疾患(脳梗塞や脳出血)
- 突然死
- 精神疾患(うつ病や発達障害)
- 行動・認知障害(アルツハイマー型認知症)
- 緑内障
- 脂肪肝
など、挙げるときりがない状態です。
診断
セルフチェックの一環として眠さの評価を行います。眠さの評価スケールはいくつかありますが、ESSスケールを使用している施設が一般的です。
睡眠時無呼吸評価(ESS)・・・日常生活8項目について4段階で眠さを評価します。
簡易検査
脳波までは測定せず、酸素低下の有無等を調べる検査です。寝ている間に起こる酸素の値の変化、 心拍数の変化を調べる機械を使います。検査機器を自宅に持って帰り、寝るときにつけて検査を行います。使い方は貸出時に当院スタッフから説明をさせて頂きますので、安心してください。
精密検査(PSG検査)
この検査は脳波まで調べる検査です。簡易検査の項目に加え、呼吸の状態、脳波を測定する事により睡眠の深さまで調べます。当院では自宅で検査が可能な機械を導入しておりますが、睡眠時無呼吸症以外の睡眠障害を起こす病気を調べる場合は、入院検査が必要になります。
夜間睡眠中の無呼吸回数を正確に測定し、1時間あたりの無呼吸と低呼吸の回数を無呼吸低呼吸指数(AHI)として算出し、AHIが5以上であれば睡眠時無呼吸症候群と診断されます。
重症度分類
AHIの値によって分類します。
AHI 5未満 正常
AHI 5~15 軽症
AHI 15~30 中等症
AHI 30以上 重症
治療
CPAP治療
重症のSASに対する世界的な標準治療はCPAP治療です。アメリカではAHI 5以上が治療対象になりますが、日本の保険診療ではAHI 20以上が保険適応になります。
CPAPの装置本体は、15㎝から20㎝角くらいの立方体の中に、すっぽり収まるくらいのサイズです。これに、空気を送り続ける専用のチューブ、鼻にあてるマスクを接続して使用します。
CPAPの日本語訳は「持続陽圧呼吸療法」です。専用の医療機器を用いて、圧力をかけた空気を鼻から気道(空気の通り道)に持続的に送り込むことで空気の圧で気道を広げ、睡眠中の無呼吸(呼吸が止まってしまう状態)を防止します。
「持続陽圧呼吸療法」ではありますが、常に一定の圧力で空気を送り続ける方法と、無呼吸の状態を察知して自動的に空気の圧力が増す方法と、2つのパターンが代表的です。どちらの呼吸方法(設定)が良いのかは、患者さんの状態によりますので、主治医がその設定方法と設定圧を決めます。圧が弱すぎると治療効果が不十分になり、圧が強すぎると使用中の違和感が強くなるため、適切な圧で治療を行う必要があります。そのため専門施設で治療することをお勧めします。
CPAPによる治療を行うことになると、長い期間、持続して行う必要があります。CPAPは、SASの根本的な治療ではありませんので、CPAPを続けたからといって、SASが完治するわけではありません。SASの根治(こんち:根本から治ること)を望むのであれば、その原因を取り除くための治療法を選択する必要があります。
しかし、CPAPによる治療は、副作用や合併症がほとんどないこと、在宅でも続けられること、基本的には眠っている間に治療を続けることができること、というのがメリットです。機器も徐々に小型化、軽量化されつつあり、 出張、旅行などの持ち運びにも便利になっています。その方のライフスタイルに応じて機器の選択やご使用方法なども検討していくことが可能です。ここはしっかり患者様に必要な治療とライフスタイルなどを踏まえ一緒に考えていきます。
上気道管理と基本的治療
1.毎日の生活で出来る原因除去から始めましょう。
第一に、肥満のひとはやせる。
肥満者では上気道周囲の脂肪により上気道が狭められているため、無呼吸が起こりやすくなっています。
減量によって脂肪が減ると上気道が広くなり、無呼吸は起こりにくくなります。
2.横向け寝・マウスピース
睡眠中の体位の工夫は有効です。
軽症の睡眠時無呼吸症候群ではうつぶせまたは横向けで寝ることが有効な場合があります。またマウスピース※など(口腔内装置) の利用も有効です。
マウスピース(口腔内装置)は、着けて寝ることで、あごを強制的に前へ移動させ、舌が落ち込んで気道を閉塞するのを防ぎます。
治療効果はCPAP療法の方が優れていますので、CPAP療法の対象とならない、軽症の睡眠時無呼吸症候群の方の治療法です。小さいため、持ち運びができるのも利点です。
マウスピースは、通販で販売されているものは効果が安定せず、個人に合わせて歯科で作成する必要があります。その際、検査で睡眠時無呼吸症候群と診断された方は、健康保険の適応となります。
当院では歯科をご紹介します(健康保険を利用するには、原則として診療情報提供書が必要です)。
3.耳鼻咽喉科的手術
口蓋垂軟口蓋咽頭形成術(UPPP)
扁桃を切除し、喉を広げる手術です。
入院のうえ、全身麻酔をして行う手術ですが、手術の効果は、50%改善率(無呼吸の回数が半分以下になる人)が、全体の約50%です。一方、睡眠時無呼吸症候群そのものが、全身麻酔の手術の危険を高めるため、術後に呼吸障害をおこすなどの危険も少なくありません。
そのため、肥満がない、扁桃が特に大きい、若年者など、いくつかの条件を満たした方以外には、薦められない手術です。
レーザー口蓋垂軟口蓋形成術(LAUP)
レーザーによって、喉の周りの部分を焼き切り、喉を広げる手術です。
全身麻酔が必要なUPPPに比べると、日帰り手術が可能であり、出血が少ないといった長所があります。
しかし、いびきを減らすことはできますが、睡眠時の無呼吸を改善する効果は、ほとんどないといわれています。逆に、手術をした部分が固くなったり(瘢痕拘縮)、筋肉を傷つけたりし、睡眠時無呼吸が悪化することがあります。
そのため、日本を含め世界でも推奨されていない治療法です。
気軽に受けられる手術なので、一部の耳鼻咽喉科や美容外科で積極的に行っているようですが、その効果や合併症について十分な説明を受けて、納得されてから受けるべきです。
4.生活習慣の改善指導(節酒、禁煙など)
アルコールや喫煙は無呼吸悪化の誘因となります。さらにアルコールやニコチンが無呼吸とは関係なく睡眠の質を落とすこと、喫煙はSASとは別に脳梗塞や心筋梗塞の危険性を増やすことから改善が必要になります。
閉塞性睡眠時無呼吸症は、多くの睡眠障害のなかの1つです。ほかの睡眠障害が合併している場合も少なくなく、周期性四肢運動障害、概日リズム睡眠障害、睡眠不足症候群、レム睡眠行動障害、ナルコレプシー、むずむず脚症候群などの閉塞性睡眠時無呼吸以外の睡眠障害の診断と治療も行います。また、合併した疾患がある場合は、他科専門医との連携を密にして診療を行っていきます。
当院での検査・治療をご希望の方に向けて、無呼吸症の方の当院での診断から治療までの流れを簡単に説明します。
当院での診断から治療の流れ
≪診察予約 初診・再診≫
予約は CLINICS アプリ、電話で行えます (初診予約の方法はこちらもご参照ください)
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≪問診表記入≫
- CLINICSアプリを登録頂きそこから予約して頂きますと、問診票をそのまま入力頂けます。お電話での予約の患者様は当日院内で問診票にご記入頂きます。
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≪診察≫
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≪検査1≫簡易検査
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≪検査2≫PSG検査※※必要時
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≪解析・診断≫
#睡眠時無呼吸症と診断
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≪治療の選択≫
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≪治療開始≫
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≪通院≫
CPAP導入3か月を目途に、治療が安定していればオンライン診療への切り替えが可能です。
CPAP導入直後は疑問点や問題点が出ることが多いので、基本月に1回来院していただき、問題点の確認・それに対する対処を医師だけでなく、睡眠学会認定の技師や看護師がしっかりとフォローアップをさせて頂いております。
ご希望に応じ、3か月目以降も対面で診察することも可能です。
また随時、機械・マスクフィッティングの調整、日常生活や療養指導のご相談にも対応させて頂きます。
今回はかなり長文になりましたが、お付き合いありがとうございました。
無呼吸症に対するよくある質問はこちらもご参照下さい。
このコラムが忙しい皆様の生活改善、ライフプランや夫婦仲の向上、健康寿命の向上の助けになればと考えております。
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渋谷睡眠・呼吸メディカルクリニックは睡眠診療を通して皆さんの生活をより良く出来る様取り組んでおります。
参考資料
一般社団法人日本呼吸器学会
http://www.jrs.or.jp/modules/citizen/index.php?content_id=42
中外医学社 睡眠時無呼吸症候群の診療メソッド
一般社団法人 日本呼吸器学会 呼吸器Q&A Q32 CPAP(シーパップ)とはどのような治療法ですか?
https://www.jrs.or.jp/uploads/uploads/files/disease_qa/qa_32.pdf
アスリートにみられる睡眠障害|精神生理性不眠症・睡眠不足症候群・睡眠時無呼吸症候群など 目指せスポーツドクター目指せスポーツドクター (sports-doctor93.com) https://sports-doctor93.com/athlete-sleeping-disorder/
睡眠呼吸障害(睡眠時無呼吸症候群)について | 東京労災病院 (johas.go.jp) https://tokyoh.johas.go.jp/medical/s_jibi/s_jibi_01.html
いろいろある睡眠時無呼吸症候群の治療法 | 小杉ファミリークリニック (kosugi-clinic.jp)https://kosugi-clinic.jp/sas-treatment
書籍
睡眠時無呼吸症候群の診療メソッド〔睡眠時無呼吸症候群の集学的治療〕
2017年10月20日発行 初版第2刷 著者:佐藤公則 発行:株式会社中外医学社