コラム
COLUMN睡眠をより良くするためのコツ:睡眠衛生指導について
年越しまであと1週間を切りました。
明日、仕事納めという企業も多いのではないでしょうか。
今年も何かとお疲れ様でした。
当クリニックも12月28日の午前診察でお正月休みに入らせて頂きます。2023年は1月6日を初仕事となります。本年11月開院から当クリニックを目にかけて頂きありがとうございました。来年もよろしくお願い致します。
年末の忙しい中頑張ってきた皆様は、お正月ゆっくり休んで頂きたい所です。日々の疲れを癒し体調を整えていただくためにも、睡眠を見直すきっかけとして睡眠衛生についてお伝えしようと思います。
無呼吸症について知りたい方はこちらのコラムもご覧ください。
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睡眠衛生指導
睡眠衛生とは、睡眠に関連する問題を解消し、睡眠の質や量を向上させることを目的に入眠方法や睡眠環境を整える方法のことです。ここでは「睡眠障害の対応と治療のガイドライン」に提示されている「睡眠障害対処12の指針」を以下に紹介します。
まずは以下のチェックリストでご自身をチェックしてみてください!
□日中の眠気で日常生活に支障をきたしている
□カフェインをよく摂取する
□規則正しい就寝時間を大事にしている
□不規則な勤務形態もしくは起床時間である
□朝晩の光の取り込みや遮蔽は出来る環境である
□毎日朝昼晩3食を摂取出来ている
□運動習慣がある
□昼寝はしている
□眠りが浅くても布団のなかで眠る努力をしている
□睡眠時のイビキや無呼吸、中途覚醒がある
□足がむずむずしたり、火照ったりして寝付けないことがある
□睡眠薬代わりにお酒でごまかすことがある
□処方された睡眠薬は自分で調整して飲んでいる
1. 睡眠時間は人それぞれ、日中の眠気で困らなければ十分
必要な睡眠時間は個人で異なり、長ければ長いほどよいわけではありません。日中の眠気が強い場合、平日と比べ週末に3時間以上長く眠る必要がある場合は、睡眠不足と判断します。8時間睡眠とよく言われますが、そこに学術的根拠はありません。必要な睡眠時間は発達と加齢の影響を受けます。加齢により夜の生理的睡眠時間は短縮します。
寝床の中で長い時間過ごしても生理的な睡眠時間を大きく超えて長く眠ることは出来ません。
2. 刺激物を避け、眠る前には自分なりのリラックス法
緊張や強い刺激があると入眠が妨げられます。スムーズに覚醒から睡眠に移行するためには、入院前は緊張や刺激を避けることが必要です。
入眠前にリラックスできれば、睡眠へ移行しやすくなります。多くのリラックス法(軽い読書、 音楽、ぬるめの入浴、香り、筋弛緩トレーニングなど)が推奨されていますが、いずれも直接的に 睡眠を誘う効果はありません。入眠を妨げる要因を弱めることによる間接的効果です。
カフェインは覚醒作用を持つ代表的な物質であり、寝つきが良くない場合は、 就床前 4 時間のカフェイン摂取を避けるべきです。さらに、カフェインは 利尿作用を持つため、尿意で目が覚めやすくなり、中途覚醒の原因ともなります。
タバコに含まれるニコチンは交感神経系の働きを活発にし、睡眠を障害します。
3. 眠たくなってから床に就く、就床時刻にこだわりすぎない
普段の入眠時刻の2~4時間前の時間帯は 1日の中で最も寝付きにくいことが分かっています。そのため、早起きや不眠の解消のために意識的にいつもより早く床に就いても、早くに入眠することは難しいとされています。就床時刻はあくまで目安であり、その日の眠気に応じ、眠くなってから床に就くことがすみやかでスムーズな入眠への近道です。
4. 同じ時刻に毎日起床
就床時刻にはこだわらずに毎朝同じ時刻に起き、起床後なるべく早く太陽の光を浴びることが すみやかで快適な入眠をもたらすことがわかってきました。起床後、目で感じた光は体内時計に伝えられ、体内時計のリズムをリセットします。そうすると、リセット後約15~16時間後に眠気が出現します。週末、少しでも睡眠時間を稼ごうと朝遅くまで床の中で過ごすと、朝の光を取り入れることができないため、その晩はさらに寝つきが遅くなり、月曜日の朝に起床するのがつらくなります。こうした問題は若い世代に多く、「社会的時差ぼけ」と呼ばれることがあります。
5. 光の利用でよい睡眠
通常室内の明るさは太陽光の1/10~1/100程度と弱く、曇りの日でも屋外では室内の10倍程度の明るさがあります。このため、起床後2時間以上暗い室内にいると、体内時計のリセットが行われません。
体内時計のリズムをきちんとリセットするには、起床後なるべく早く太陽の光を浴びる必要があります。
家庭における照明程度では通常問題となりませんが、遊技場やナイター施設、コンビニエンスストアのような過度に明るい夜間の室内照明は、体内時計のリズムを遅らせることになり、自然な入眠時刻が遅れます。
6. 規則正しい3度の食事、規則的な運動習慣
1日の始まりにしっかり食べて栄養を摂取することは、脳へのエネルギー補給となり、体温を上昇させ、活動レベルを高めることに役立ちます。規則正しく朝食をとっていると、朝食の1時間ほど前から消化器官の活動が活発になり、朝の目覚めを促進します。
夜食を食べすぎると寝つきが悪くなり、夜中に目が覚め、睡眠の質が悪化することがあります。食物の消化が終了せず、眠る時間帯に消化器官が活発に活動していると、睡眠が妨げられます。特 にタンパク質の多い食物でこの傾向が強いとされています。
昼間の運動が夜間の睡眠を安定させ、睡眠の質を改善することが分かっています。成人に対して行われた日本の調査では、運動習慣のある人は不眠になりにくいという結果が出ています。軽く汗ばむ程度の運動量でいいのですので、好みや体力に応じて無理なく長続きする方法をとり、毎日規則的に行うのが効果的です。
7. 昼寝をするなら、15時前の20~30分
以前は昼寝をすると夜の睡眠の質を低下させるといわれてきましたが、最近の研究によれば、昼食後から15時までの時間帯に30分未満の規則正しい昼寝をとる事は、午後の眠気を解消し、眠気による作業能力低下を防止するのに役立ちます。
午後に一時的に眠くなるのは体内時計のリズムと関連した現象と考えられています。
一方で30分以上昼寝すると、身体と脳を眠る体制にしてしまい、かえって覚醒後にぼんやりしてしっかりと覚醒するのが困難になります。
8. 眠りが浅い時は、積極的に遅寝・早起きに
睡眠に対して意識過剰になると、少しでも眠ろうと長く床の中で過ごすようになることが多くなります。しかし、普段の入眠時刻の2~4時間前が最も寝つきにくい時間帯であることから、早く床に入ってもなかなか寝付けず、よけい不眠を自覚し不安が増強されます。
さらに、起床時刻が遅くなって必要以上に長く床の中で過ごすと、かえって睡眠は浅くなり、夜中に目覚めやすくなります。 起床時の熟眠感も損なわれます。
このような場合、むしろ遅寝、早起きにして就床時間を減らします。これにより必要なだけ床の上で過ごすようになるため熟眠感が増します(睡眠制限療法)。
睡眠に対する不安が強い方は「8時間眠らないといけない」など、睡眠時間そのものにこだわりを持っている場合が非常に多いため、睡眠衛生の理解が前提条件になります。
9. 睡眠中の激しいイビキ・呼吸停止や足のぴくつき・むずむず感は 要注意
睡眠と関連して起こる身体の病気により、睡眠の質の低下と、それにより引き起こされる日中の眠気が起こることがあります。こうした疾患の場合は睡眠障害の専門的治療が必要です。
睡眠時無呼吸症は、激しいイビキと睡眠中の頻回の呼吸停止、呼吸再開に伴う覚醒をくり返す病気です。このため深い睡眠を安定してとることができなくなるため、夜間の中途覚醒や日中の過剰な眠気が出現します。中年以降に多く、男性の方が2~3倍多いですが、若い女性でも出る方がいます。
レストレスレッグス症候群(むずむず脚症候群)は夜入床してから数時間にわたって、じっとしていると足がむずむずしたり、ほてったりして、その不快な感覚のために、なかなか寝付けないという状態を呈する疾患です。足先をグーパーすると症状が軽減します。
周期性四肢運動障害は、夜入床してから数時間にわたって、下肢が不随意運動により反り返るため、その知覚による刺激で「足がぴくんとして目が覚める」などと訴えます。
10. 十分眠っても日中の眠気が強い時は専門医に
重大な産業事故であるスリーマイル島の原発事故(1979年)やチャレンジャー号の爆発(1986年)などはすべて睡眠を切り詰めた影響で、非常に眠い状態で行った作業のミスにより起こったと推測されています。睡眠不足で昼間の眠気が強いと、交通事故のリスクが一般人の倍近くになります。
日本在住成人における調査では、日中の過剰な眠気は成人の2.5%に認められ、若年者ほど頻度が高いと言われています。これらは、睡眠不足(睡眠の量的低下)、睡眠時無呼吸などの睡眠障害(睡眠の質的低下)によるものがほとんどです。しかし、なかにはナルコレプシーに代表される過眠症が隠れている場合があります。
十分な睡眠をとるようにしても日中の眠気が改善しない場合は、睡眠障害の専門医の受診と眠気に関する精密検査が必要です。
11. 睡眠薬代わりの寝酒は不眠のもと
睡眠薬代わりにアルコールを使用すると、リラックス効果で寝つきはよくなりますが、夜間の睡眠が浅くなり中途覚醒が増えるため、全体として睡眠の質を悪化させます。連日飲酒すると容易に慣れが生じ、同じ量では寝つけなくなるため飲酒量が増加します。
睡眠薬代わりの寝酒では、通常の飲酒と比べて摂取量が急速に上昇しやすく、アルコール過剰摂取による精神的・身体的問題が起こりやすいと言われています。
12. 睡眠薬は医師の指示で正しく使えば安全
睡眠薬について、一般に誤った認識が広がっています。「睡眠薬を飲むと認知症になる」「癖になってだんだん量を増やさないと効かなくなる」「寝酒の方が安全」といったものです。昔使われていたバルビツール酸系睡眠薬は、耐性・依存性・離脱症状が強く、大量服薬によって死に至ることもありました。現在一般的に使われているベンゾジアゼピン受容体作動薬(ベンゾジアゼピン系および非ベンゾジアゼピン系などの睡眠薬)は、正しく使用すれば、こうした性質が弱く、少なくとも睡眠薬代わりの寝酒よりも安全と考えられています。
睡眠の改善は健康への第一歩。ぜひ正しい知識をもとに取り組んでみて下さい。分からない事があれば診察の際に聞いていただければお話させていただきます。
それでは皆様 良いお年をお迎えください。
参考・引用文献
睡眠障害の対応と治療ガイドライン 第3版
厚生労働省健康局 健康づくりのための睡眠指針 2014